越冬遺伝子

かつて、この星には氷河期と呼ばれる寒冷な時代があった。
寒冷な時代を生き抜くために、ヒトは体内に生存に不可欠な遺伝子を発現させる。
その遺伝子を持つ者のみが寒冷期を生き残り、現代まで子孫を残すことができた。
越冬遺伝子。
食料からのエネルギー吸収を高め、消費カロリーを最小化し、脂肪として蓄積するのみならず、断熱材としても活用する。
それは、寒冷期にあってはエリートの証であったはずだ。


気候の変化は皮肉である。
今、我々はその遺伝子の発現を抑えるべく、苦悩している。
福音であったものが、嫌われる。


いつか、また冬が来る。食料の確保に苦労するような時代。越冬遺伝子の時代だ。
今は、雄伏の時。


・・・と、つぶやく遺伝子が、俺の中に、いる。